滋賀県高島市は、琵琶湖と山々に囲まれた自然豊かな地域です。

この土地では古くから狩猟文化が息づき、鹿や猪といった野生の恵みが身近に存在してきました。

しかしながら、近江米や近江牛などのような「名物」として広く知られているわけではありません。

そこで当店では、この地に根ざす食文化のひとつとして、ジビエの価値を見つめ直し、その魅力と意味を、食を通して拡めていきたいと考えています。

ジビエとは ― 野生の命をいただくということ

ジビエとは、狩猟によって得られる野生鳥獣の肉のことを指します。フランスでは古くから食文化として確立されており、季節の恵みとして大切にされてきました。

家畜とは異なり、自然の中で育った動物たちは、その土地の環境をそのまま映し出す存在でもあります。つまりジビエは、単なる肉ではなく、「土地の味わいそのもの」とも言える食材なのです。

なぜ今、ジビエなのか ― 食と環境の視点から

近年、日本各地で鹿や猪による農作物被害が深刻化しています。環境省の報告によれば、野生鳥獣による農作物被害額は年間数百億円規模にのぼるとされております。

その対策として、多くの地域で、狩猟などの捕獲が行われていますが、ここでひとつの問題があります。それは、捕獲された個体の多くが、食用として活用されず廃棄されているという現実です。

廃棄される命 ― ジビエ利用の現状

農林水産省などの資料によれば、捕獲された鹿や猪のうち、実際に食肉として流通する割合はおよそ1〜2割程度にとどまるとされています。つまり、約8割以上が廃棄されているのです。

衛生管理の問題、解体・加工施設の不足、流通体制の未整備、食べる人からの「臭い」「怖い」という印象など、その理由は様々です。

この現状は、言い換えれば「命を奪っておきながら、その多くを活かしきれていない」ということです。

しかしながら、適切に処理されたジビエは、決して粗野なものではなく、むしろ繊細で滋味深い味わいを持っています。

高島市とジビエ ― 知られざる山の恵み

鹿肉

脂肪が少なく、赤身が中心で、鉄分を豊富に含み、すっきりとした味わいが特徴です。

適切に火入れを行うことで、驚くほど繊細で上品な旨味が感じられます。

猪肉

しっかりとした脂とコクがあり、力強い味わいで、冬場には特に脂がのり、濃厚で満足感のある一皿となります。

どちらも、自然の中で育ったからこその個性を持っています。

ジビエは「怖くない」 ― 美味しさを左右するもの

ジビエに対して、「臭い」「硬い」といった印象を持たれる方は多いと思います。しかしその多くは、処理の状態や鮮度による問題によるところが大きいです。

適切な血抜き、迅速な処理、衛生管理の徹底がなされていれば、ジビエはむしろ非常にクリーンで、素材本来の味わいを楽しめる食材といえます。

食堂すず広での考え方 ― 無化調とジビエ

すず広では、化学調味料に頼らず、素材そのものの味を大切にしています。ジビエはまさに、その考え方と深く結びつく食材です。

野生の動物が持つ本来の旨味、その一つひとつを丁寧に引き出し、余計なものを加えずに仕立てる。それは単なる調理ではなく、命に向き合う行為そのものです。

高島から広がる食文化へ

当店では、ジビエを特別なものとしてではなく、日常の中で楽しめる食材であり、地域と自然、そして人をつなぐ営みであると考えています。

きまだ広くは知られていない高島のジビエですが、そこには、たしかな魅力と価値があります。それを当店で味わっていただき、少しずつでも拡めていくことが、当店の役割であると信じています。